記憶は「編集」される物語

記憶はしばしば、出来事をそのまま記録するビデオカメラのようなものだと考えられがちです。しかし、私たちの脳が行っている記憶のプロセスは、はるかに複雑で、そして驚くべきものです。実際には、記憶は完璧な記録ではなく、絶えず「編集」され、再構築される物語に近いのです。

記憶のメカニズムは、大きく分けて「記銘(エンコーディング)」「保持(ストレージ)」「想起(リトリーバル)」の三段階で説明されます。出来事や情報が脳に取り込まれ(記銘)、一時的または長期的に保存され(保持)、必要に応じて再び取り出される(想起)という流れです。このうち、特に興味深いのが「想起」の段階です。

私たちが何かを思い出そうとするとき、脳は過去の出来事をそのまま再生するわけではありません。むしろ、断片的な情報をかき集め、文脈に合わせてパズルのように再構築しているのです。この再構築の過程で、無意識のうちに新しい情報が付け加えられたり、都合の良いように改変されたりすることがあります。だからこそ、同じ出来事を経験したはずの人々の間で、記憶が食い違うことは珍しくないのです。

有名な心理学の実験では、目撃証言がいかに不確かなものであるかが示されています。例えば、事故の映像を見た後、「車が『衝突した』ときの速度は?」と聞かれるのと、「車が『ぶつかった』ときの速度は?」と聞かれるのとでは、回答される速度に違いが出ることがあります。使われる言葉一つで、記憶の「中身」が変わってしまう可能性があるのです。

つまり、私たちの記憶は客観的な記録ではなく、脳がその都度作り出す、非常に個人的で動的な「物語」なのです。私たちは過去を完全に知っているのではなく、常に新たな視点で再解釈し、記憶という名の物語を紡ぎ続けていると言えるでしょう。この知られざる記憶の性質を知ることで、自分や他人の記憶をより深く理解する手がかりになるはずです。