ノートパソコン、その知られざる前史

今や薄く、軽く、高性能なノートパソコンは私たちの生活に欠かせない存在です。カフェで仕事をしたり、旅先で映画を観たり、手のひらサイズの端末のように当たり前に持ち運んでいますが、そのルーツを探ると、驚くほど重く、高価で、そして何よりも「持ち運ぶ」という概念自体が画期的だった時代に行き着きます。私たちが知る「ノートパソコン」の形が生まれるまでには、先人たちの試行錯誤の歴史がありました。

「世界初のポータブルコンピュータ」と呼ばれるものには諸説ありますが、1975年に登場したIBM 5100は、ディスプレイとキーボードを一体化した当時としては画期的な設計でした。しかしその重さは約25kg。とても膝の上に乗せて使える代物ではなく、現代の基準から見れば「移動可能なデスクトップ」といった趣でした。その後、1981年には商業的に成功を収めたOsborne 1が発表されますが、こちらも約10kgと、いまだ「持ち運び可能」というよりは「なんとか持ち上げられる」といった方が近いかもしれません。

私たちがイメージする「ノートパソコン」の原型に最も近いのは、1982年に開発されたGRiD Compassでしょう。折りたたみ式のクラムシェルデザイン、そしてオレンジ色に光るELディスプレイは、SF映画から飛び出してきたかのような未来的デザインでした。NASAがスペースシャトル計画で採用するなど、最先端の技術が凝縮された一台でしたが、その価格は当時の日本円で約200万円と、とても一般人が手を出せるものではありませんでした。

これらの初期のポータブルコンピュータは、現代の洗練されたノートパソコンとはかけ離れた姿をしていましたが、「どこでもコンピュータを使える」という夢を追い求めた技術者たちの情熱とビジョンによって生み出されたものです。重厚な「持ち運び式」から、手のひらに収まる「ノート型」へと進化した道のりは、技術の進歩がいかに私たちのライフスタイルを変えてきたかを示す、興味深い歴史と言えるでしょう。