消しゴム、かつてはパンだった?その驚きの歴史
今日、鉛筆と並んで当たり前のように存在する消しゴム。しかし、その誕生には意外なドラマがありました。私たちが知るゴム製の消しゴムが登場するまで、人々は様々なものを「消しゴム」として使っていたのです。
鉛筆の文字を消す、という行為は古くから存在しました。18世紀半ばまでのヨーロッパでは、なんと「パン」がその役割を担っていました。焼いたパンの柔らかい部分をちぎって鉛筆の跡にこすりつけると、その吸着性で黒鉛が取り除かれたのです。ただし、時間が経つと腐敗したり、パンくずで汚れたりするという欠点がありました。また、インクを消すためにはワックスが使われることもありました。
そんな中、歴史を変える発見が訪れます。1770年、イギリスの化学者ジョゼフ・プリーストリーが、南米原産の「天然ゴム」が鉛筆の跡を驚くほどきれいに消す効果があることを発見しました。この発見を受け、同年のうちに工芸家のエドワード・ネアーンがゴム製の消し具を商品化。これが、現代の消しゴムの直接のルーツとなります。当時のゴムは高価で、すぐに硬化したりべたついたりするという課題もありました。
その後、1839年にチャールズ・グッドイヤーによるゴムの加硫法が発明され、ゴムは耐久性を増し、大量生産が可能になります。これにより、消しゴムは一般に普及していきました。日本でも明治時代にゴム消しが登場し、大正時代には鉛筆の先に消しゴムが付いたタイプが輸入され、やがて国産品も作られるようになります。
さらに時代が進むと、ゴムアレルギーの問題や、消しカスがまとまらないといった不満を解消するため、プラスチック製の消しゴムが登場します。特に塩化ビニル樹脂を使ったプラスチック消しゴムは、その優れた消字性能と、まとまりやすい消しカスの特性から、現在では主流の一つとなっています。
パンから始まり、天然ゴム、そして進化を遂げたプラスチック製へと、消しゴムの歴史はまさに試行錯誤と技術革新の連続でした。私たちが何気なく手に取る小さな道具の裏には、人々の知恵と工夫が詰まっているのです。
