渡り鳥が描く空の航路図
東アジアからオーストラリアまでをつなぐ「東アジア・オーストラリア・フライウェイ」では、シギやチドリが北海道やサハリンの湿地で体力を蓄え、一気に南半球へと跳躍する。カザフスタンの湖沼も、アフリカへ向かう雁が短期間だけ立ち寄る給油ステーションで、地図に載らない点在するオアシスが世界規模の空の回廊を支えている。
ナビゲーションの秘密は、星や太陽だけではない。北極圏を旅するカササギヒタキは地球の磁場を視覚的に捉える仕組みを持ち、夜間飛行でも方角を失わない。さらに渡りの途中で季節風を利用する鳥もいれば、ヒマラヤ越えのバードヘッドグースのように酸素濃度が低い高度8000メートルを翼だけで突破する例もある。
近年は小型GPS発信器やレーダー網が発達し、1羽のムナグロがアラスカからハワイを休みなく8日間飛び続ける軌跡が可視化された。こうしたデータは、気候変動で干上がる休憩地を特定し保全する手掛かりとなり、空を行き交う大移動の路線図を現代の技術が描き直している。
