人工雪の踊る骨格
スキー場で夜間に響く低い唸り声は、空気を雪へと変えている機械の奏でる歌だ。人工雪の製造は、単に水を冷やすだけの作業ではない。気温が氷点下に近づいていても、湿度が高いと雪はなかなか降らない。そのため降雪機は、水に微細な気泡を含ませて霧状に噴霧し、同時に冷却した空気をぶつける。気泡の表面が核となり、急速に冷えた水滴は瞬く間に六角形の結晶骨格をまとって雪片へと変わる。つまり、人工雪は空気と水の境界で起きる結晶化の踊りなのだ。
1930年代のカナダで初めて考案された技術は、ハリウッド映画のための特撮現場で検証された後、第二次世界大戦を経てスキー産業に流れ込んだ。最初期の装置は消防ポンプを改造しただけの代物で、気温が下がらないと氷の塊しか作れなかった。それが1970年代のデジタル制御の登場により、湿度・風向・気温のデータをリアルタイムで調整できるようになり、滑走感にこだわるリゾートは結晶のサイズをプログラムで指定するほどの精度を手に入れた。
最近では、水資源をめぐる議論が人工雪に新たな視点をもたらしている。1ヘクタールのゲレンデを一晩で覆うには、オリンピック公式プール数杯分の水が必要だと試算されている。そこで、地下水への負担を減らすために雨水貯留システムや、夜間の低温を活用した蓄冷材とのハイブリッド方式が導入されつつある。あるスイスのリゾートでは、人工雪が融け出した水を再利用する循環ループを構築し、山の水循環を乱さない挑戦が進行中だ。
人工雪はまた、気候変動と向き合う観測装置にもなり始めた。降雪機のログに記録された気温や湿度の変化は、季節ごとの微妙なズレを知らせる指標となる。温暖化によって自然雪のシーズンが縮む一方で、人工雪の技術は冷気の限界と資源の持続可能性を図るリトマス紙の役目を担っている。白銀の斜面を支える技術は、山々の未来を測る鏡でもあるのだ。
