「貼って剥がせる」奇跡の付箋:失敗から生まれた世紀の発明

私たちの身の回りには、当たり前のように存在し、日常を便利にしてくれる品々が溢れています。しかし、それらの多くが、実は偶然の産物であったり、意外な経緯を経て誕生したりしたことをご存知でしょうか。今回は、誰もが一度は使ったことがあるであろう、ある身近な文具の驚くべき誕生秘話に迫ります。

1968年、アメリカの3M社に勤める研究者スペンサー・シルバーは、強力な接着剤の開発に取り組んでいました。しかし、彼が偶然生み出したのは、いくら貼ってもすぐに剥がれてしまう、粘着力の弱い接着剤でした。当初、これは「失敗作」と見なされ、使い道が見つからないまま、数年間お蔵入りとなります。

時は流れ1974年、同じ3M社の研究者であるアート・フライは、教会の聖歌隊で歌う際、楽譜のしおりがすぐに落ちてしまうことに頭を悩ませていました。そんな時、彼はシルバーの研究発表会で目にした「すぐに剥がせる接着剤」のことを思い出したのです。「これを紙の裏に塗れば、剥がれ落ちないしおりになるのでは?」このひらめきが、後に世界を席巻するあの商品の原点となりました。

当初は社内でもなかなか理解を得られず、製品化には苦労が伴いました。しかし、一部の社員がその利便性に気づき、社内での普及が始まります。そして1980年、「ポスト・イット」として一般販売が開始されると、瞬く間に世界中で大ヒット。今やビジネスシーンから家庭まで、私たちの生活に欠かせないアイテムとなっています。

「失敗作」とされた技術と、日々の小さな悩みが結びつき、世界を変える発明が生まれた。この物語は、固定観念にとらわれず、異なる視点を持つことの重要性を私たちに教えてくれます。次にポスト・イットを使うとき、この「偶然とひらめきの化学反応」を思い出してみてはいかがでしょうか。